「お母さん、事故を起こした。今すぐお金が必要」。家族の声に聞こえる電話でも、本人だと決めつけないでください。短い音声から声を似せるAI技術が知られるようになり、以前からある「オレオレ詐欺」の電話でも、音声の真偽だけに頼れない場面があります。動画会議で上司や取引先に見える相手から、送金や秘密情報を求められるケースも想定されます。
AI音声やディープフェイクは、実在の人の声や映像に似せて作られた合成コンテンツです。しかし、詐欺のすべてがAIを使うわけではありません。身近な人の名前、緊急の事情、秘密にしてほしいという言葉で判断を急がせる手口は、以前から使われています。
声が似ているだけでは本人確認にならない
音声は録音環境や回線で聞こえ方が変わります。合成音声か人の声かを電話越しに聞き分けるのは難しく、AI判定アプリにも誤りがあります。「声が本人に似ている」「映像が自然」という理由だけで、送金や認証コードの共有を決めないことが大切です。
詐欺では、事故、逮捕、入院、会社のトラブルなど、すぐ助けないと大変だと思わせる筋書きが使われます。さらに「電話を切らないで」「家族には秘密」「指定口座に送って」と、相談や確認を妨げる要求が出たら、いったん通話を終えてください。

電話や動画でお金を求められたら
1. 相手が示した番号へ折り返さない
通話を切り、家族や会社の連絡先として以前から登録している番号へ、自分からかけ直します。メッセージに書かれた番号や、着信履歴からすぐ折り返すのではなく、手元の連絡帳や公式サイトにある番号を使います。
2. 家族だけが分かる合言葉を決める
普段から、急な送金や個人情報の依頼を電話だけで受けないと家族で合意します。必要なら、外部に出していない合言葉を決めます。合言葉を聞いても、その言葉を第三者へ教えないようにしてください。合言葉だけに頼らず、既知の電話番号へのかけ直しと組み合わせます。
3. 送金や秘密情報は別経路で確認
会社の送金、ギフトカード購入、パスワード共有、認証コードの読み上げを急に頼まれたら、会議を切り、社内の別の担当者や上司へ確認します。本人のアカウントが乗っ取られている可能性もあるため、同じチャット内で「本当にあなた?」と聞くだけでは不十分です。
確認方法:家族と確認ルールを作る
家族と一緒に、急な電話でお金を頼まれた時の手順を決めます。例として「いったん切る」「連絡帳に保存した番号へ本人にかける」「つながらない時は他の家族にも確認する」と紙に書き、電話の近くに置きます。必要なら、電話に出る前に家族の名前を名乗らせる設定や、迷惑電話対策機能も確認します。テスト目的で実際に振り込んだり、秘密情報を伝えたりする必要はありません。
会社の会議や取引先を装う連絡
ビデオ会議で上司や取引先のように見える相手から、急な振込、請求先の変更、機密ファイルの送付を頼まれた場合も、会議の映像だけで判断しないでください。会社の決められた承認手続きに戻り、いつもの電話番号や社内チャットの別担当者から確認します。送金先の変更は特に、請求書の連絡先へ直接問い合わせ、メールに返信して確認しないようにします。
個人宛ての「声のサンプルを送って」「認証コードを教えて」という依頼も断って構いません。音声をSNSに公開しているから必ず音声詐欺に遭う、という意味ではありませんが、公開情報が詐欺の材料になる場合があります。家族や職場の人が緊急を理由に秘密を求めても、確認する時間を取ることが正当な安全手順です。
電話番号の表示は偽装されることがあります。画面に家族や警察の番号が出ても、番号表示だけを本人確認の根拠にしないでください。相手が「今すぐ」「誰にも言うな」と繰り返すほど、いったん通話を切り、周りの人に相談する理由になります。相談を妨げるような相手の指示には従わないでください。
もし送金・情報共有をしてしまったら
送金が関わる場合は、すぐに銀行へ連絡し、振込先口座の対応を相談します。日本では警察相談窓口や最寄りの警察にも連絡してください。カード番号を伝えた場合はカード会社へ、会社の情報を送った場合は社内のセキュリティ担当へ報告します。AI画像や録音を相手に返送したり、SNSに公開したりせず、着信時刻、番号、メッセージを保存します。
家族の声を完璧に聞き分ける方法はありません。本人に別の番号から確認する時間を確保し、送金は急がず、必ず二人目の確認を通す。平時に決めた手順が、緊急時の判断を助けます。
相談先を事前に決めておく
詐欺の電話を受けた時、本人がすぐ対応できない状況もあります。家族以外にも相談できる人を決め、警察相談や自治体の消費生活相談など公的窓口の連絡先を控えておきます。電話の相手が「警察に相談するな」と言っても、その指示に従う必要はありません。身近な人が被害にあったと気づいた時は、責めずに、いつ・どの番号から・何を伝えたかを一緒に整理します。送金やカード情報の共有があれば、銀行やカード会社へ早く連絡することが重要です。録音やスクリーンショットは、相手へ送り返さず、相談時に見せられるよう安全な場所へ保存します。
本人が電話に出られず確認できない時も、相手の指示に従って振込期限を優先しないでください。家族の別の連絡先や勤務先へ確認し、返事を待つ時間を作ります。急ぐよう求められても、確認の手順を省く必要はありません。

